このアングルからのスカブーもなかなか「大型車なんかいらない!」のつづきです。
07年。その日は3月とはいえ、どんより曇り空で寒かった。
前日、出張買取店に電話したら、その日の夜、うかがいますとのこと。この時期、他社に先をこされたくないのだろう。
あまりにすばやい対応にビビった私は、一日のばしてもらった。
人に来てもらって見ていただくのだから、ちゃんとバルカンを磨きあげておきたい。
東京に出ていく息子は、キチンとしたファッションで送りだしたい、というのに似ている。私は子供も妻もいないけど。
当日、3時間ぐらいかけて、フェンダーの裏までバルカンを磨きました。
午後7時くらい、という約束が少しおくれて、8時ころになるという。
おそれていたことだが、弱い雨がふりだしていた。
「夜、おそくまで、たいへんだなあ」
とうぜん、外は真っ暗である。
いまはカバーをかけてあるが、査定されるときはバルカンは雨にうたれなくてはならないだろう。
もし、商談成立ならば、すぐ持ち去られるのが、出張査定のオキテ。雨ふりの別れぎわ、しかも夜、というのはハマりすぎだ。
携帯から連絡が入り、住所を最終確認、数分後にそのトラックは来た。
デカい。
ジュラルミンのボディに会社のでっかいロゴがはいった、ひと家族の引越しができそうなヤツだ。
大きなウエストバッグを腰に巻いた30代のお兄さんがおりてきた。
「どうもおせわさまです」
お互いにいいあって、お兄さんを玄関にむかえいれる。
「さっそくなんですが、車検証と自賠責を拝見できますか?」
あいさつもそこそこに、彼は仕事にはいった。
ジャンパーとジーンズはオイルやその他でくすんでいる。
私的には、バイク関係者はこれくらいのかっこうのほうが好感がもてる。あまりにパリッとしたいでたちでは、「ほんとうにちゃんと仕事しているのかいな」てな、あらぬ疑惑を感じたりする。
「では、お車をお願いします」
といわれ、私は小雨のなか、カバーをとってバイクを出した。
お兄ちゃんは雨なんかものともせずに、LEDの懐中電灯を片手に、車体の各部をデジカメでビシバシ撮りはじめた。
私がいいかげんに補修したとこらへんも、とうぜんばっちり。
ちと恥ずかしい。
バイクは全体としては程度は悪くないはず。一回立ちゴケしたことがあるが、フットボードが支えになってくれて、さいわい車体には傷がなかった。
10分ほどで作業は終了。
「もう少しおまちください」
玄関でしゃがみこんで何やら作業をつづけようとする。
「ここじゃなんですから、お茶でも」
「あ、いえ…そうですか」
私はむりやり彼を居間にあげてコーヒーを出した。
彼はあぐらをかき、コトバすくなく、タッチパネルのついた携帯端末を操作する。支店長かだれかにデジカメで撮った映像を送り、査定額をあおぐのだろう。
さっきから気づいていたのだが、彼の全身から香るタバコの匂いがすごい。1日2箱以上のスモーカーとみた。
「すみません、タバコ吸っていいですか?」
入力しおわると、やはり彼はいった。
「すみませんが、何分かかかりますので」
「雨のなか、もうしわけありませんね」
「いえ、ぜんぜん、平気です」
「きょうはもう、ウチで何軒目ですか?」
「8軒めです」
「8ケン!?」
「かきいれどきですから」
さとりをひらいた仙人のように、彼はクールにこたえてくれた。
やがて端末から結果が出た。
「こうなりました」
画面を見ると、赤男爵さんとピッタリ同じ40万円!
「赤男爵さんと同じですねえ」
と私がいうと、彼は苦笑して、
「つかっているオークションのデータベースがいっしょなんで、そうなっちゃうんですよ」
「なるほどねえ。でも、そこをなんとか、もう一声、なりませんか? 赤男爵さんも、契約してくれるならもう少しなんとかするとおっしゃってましたし」
「うーん。けっこうがんばっているんですけどねえ」
「そこをなんとか」
「じゃあ、限界までいってみますね」
彼はタバコを灰皿において端末に何やら入力した。
「少しおまちください」
しばらくして、45万円という額が提示された。
もうじゅうぶんだ。
私は売買契約書にサインした。
(私事ですが)人生のおそらく一番ハードだった時期をともにすごしたバルカン・ドリフターとの別れについては、湿っぽくなるのでやめておきます。
「速い!急展開の買い替えドラマ(その2)」につづく。